「あ、おはようございます」

ばったり庭で出くわした八助に、秋文は挨拶をした。

「おお、おはよう。どうされた、秋文どの。ずいぶん急がれているようだが」

息を切らしている様子に、何事かと目を丸くする。

「あの…紋瀬くんがどこにいるか、ご存知ありませんか?」

「紋瀬? あれなら学校へ向かったが」

「学校?」

「今時の高校生には休みというものはないらしい。前期講習とか言っておったよ」

「…そうですか」

道理でどこにも姿が見えないわけだ。

「昼前には帰ってくる」

「分かりました」

自分の部屋に引き返そうと歩きだして、秋文は立ち止まった。

「あの…ひとつ教えて下さい」

「何だね?」

「この村には、現在でも鬼がいるのでしょうか」

「なぜそう思われる?」

「気配があるからです。この土地に鬼がいる…」

その答えに、八助はふっと笑った。

「ならばおるのだろうよ。気をつけなされ。気を緩めることなく、注意深く行動することだ」
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