「あの、手を離して貰えませんか」


「…あっ、ごめん!!」


秋文が慌てて離すと、紋瀬は植え込みの陰に屈んで作業を再開する。

良く見ると、地面に置いた鏡に土をかけているようだ。

「何をしているんだ?」

「鏡を埋めているんです」

それは見ればわかる。

「いや、埋めて何をしているのかと…」

すると紋瀬は顔を上げた。

「どんな音や気配がしても、朝まで部屋から出ないで大人しくしていて下さい。理由は明日、お話します」

淡々と、でも有無を言わさぬ口調に秋文は黙り込んだ。


(これは夕べ八助さんが話してくれた祠の話に似ている…?)


「他に質問はありますか?」

「い、いや、ないけど」

答えると、紋瀬はまた黙々と作業を始める。

簡潔な返答。

秋文は彼がこれ以上自分と話したくないと悟り、

「…おやすみ」

言い残して部屋に戻ることにした。


ざく、ざく…


土を掘る音が妙に響く。


「鬼がここに来ています。気をつけて下さい」

紋瀬は秋文の背中に向かって、静かに警告した。
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