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秋文はその晩、坂上の家に泊めてもらうことになった。

例の鏡を枕もとに置いて床についていた秋文はふと、外に何かの気配を感じて目を覚ました。

布が擦れるような音。


「…」


布団から抜け出すと、障子に手をかける。

そろり開けると、強い風が吹いて秋文の髪をなぶるように乱した。

真っ暗な闇の中、それでもじっと目を凝らすと何かが動いている気配がする。

カサリ…微かに植え込みが揺れた。


「誰だっ!」


秋文は裸足のまま表へ駆け出す。

彼の思ってもいなかった俊敏な動きに、相手は油断したらしい。

秋文の手が『何か』を掴んだ。

それを植え込みから引きずり出す。



「えっ、紋瀬、くん……?」



秋文は間抜けな声を出してしまった。

「…こんな時間に君は一体、何をしているんだ?」

彼も驚いたような顔をしたが、それも一瞬のことですぐにいつもの表情へ戻る。

「まだ起きていたんですか?」

「何か気配がしたから目が覚めたんだよ」

「ああ…それは起こしてしまってすみませんでした」

果たして本当にそう思っているのか…彼の態度からは読み取れなかった。
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