「今の段階で、判断はできません。古き言い伝えはあったとしても、鬼という存在に僕は一度も出会った事がありませんから…」

「確かにそうじゃの。百聞は一見にしかずと昔の人も言っておる。お前さん自身で逃げた鬼を捕まえてみるがいい」

「いえ、あの八助さん。僕には浜の力もないですし、ここに来たのはあくまでも…」

父の代理だと言おうとしたのだが、八助の老人とは思えぬ強い眼力で見つめられて言葉の続きを言えなくなってしまった。

「お前さんにならできる。十八代目、坂上八助が言うのだから間違いない。感じるんじゃよ。お前さんの持つ雰囲気から立ち上る強い力をな」

八助は棚から布に包まれたものを取り出すと、秋文の前で開いた。


「これは…」


「考えたんじゃが、やはり今回の鬼は修行中の孫の鏡では無理と思いましてな…これは十二代目・正兵衛の作った鏡です」

「十二代目…」

「彼は歴代の中でも最も封鏡作りに優れた人物だと言われておる。本来ならこれは坂上家の護りだが、今回は事情が事情…あれだけの強い鬼を封印するには、それなりの鏡が必要になるだろう。今の時点でこれだけのものを作るのは、わしにはもちろん、孫の紋瀬にも無理だ。お前さんなら使えると見込んで、これを託す」

「でも…」

「心配であれば、孫の紋瀬もあなたと一緒に同行させましょう。あれはまだ若いが坂上の血を強く受け継いでおる。何かあれば役に立つと思うが」


(何だか話がおかしな方向に行ってる気がする…)


秋文はテーブルの上の鏡に視線を落とすと、小さなタメ息を零した。
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