夏休みを間近に迎えた、ある日。


「秋文、お前夏休みどうすんだ?」


講義を終えて帰り自宅をしていると、友人の相田壮平(そうへい)が声をかけてきた。

身長186センチ、いい体躯をしている彼が傍にいると、線の細い176センチの秋文は小さく見える。

彼と行動を共にすると、嫌でも人目につく事は確かだ。

教室を出て廊下を歩いていると、今もすれ違う生徒たちがチラチラとこちらを見ているのが分かる。


「夏休み?夏休みは実家の手伝いがあるから、帰省するけど」

「実家の手伝い…そういや、お前ん家って確か九州だったよな。酒蔵か何かやってんのか?」

相田はキョトンとした顔で、隣を歩く秋文を見た。


「…あのさ、お前と会ってもう2年になるんだけど。相田は今まで何を聞いてたんだ?」


秋文は呆れ顔で、質問を返す。

「んじゃ、はい確認。氏名は浜秋文。K大の2年生で、実家は九州。今は親元離れて1人《無駄》な2DKのアパート暮らし。彼女はなし。昼は学生、夜はコンビニのバイトで学費稼ぎ…データは間違ってないだろ?」

無駄な、とは言ってくれる。

「あぁ、確かに間違ってはいないな。けど抜けてる、肝心な部分が抜けてるんだよ。オレの実家は小さいけど村の神社の神主やってる家系だって、初めて会ったころ頃に言ってたはずだぞ。去年の夏だって、その都合で実家に帰ってたじゃないか」

「あれ、そうだっけ?」

相田は頭をボリボリ掻きながら、呑気に笑った。

「ごめん、今初めて聞いた」



「…」



本当に知らなかった、否、聞いてなかったんだと秋文はタメ息をつく。
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