「この木谷村も昔は『鬼谷村』と表記しておりました。この場所は鬼の集まる何かがあったのでしょうな。頻繁に現れては、村人を喰っていたと言われておる」


「鬼の谷…」


「祖先はその昔、この地に大鏡を埋めてその上に封じの祠を建てた。それは鬼の降りてくる村の入口に作られ、足を踏み入れたならばたちまち祠の中に吸い込まれたとの言い伝えが今でも村に残っています。ここへ行く途中、道端に祠を見なかったですかな?」

八助に言われて、秋文は通ってきた道を思い返す。


(村の入口に…祠?)


そういえば、石で出来た祠っぽいものはあったような気がする。


(でも雨風にさらされて、丸っこくなってたからただの石だと…)


いやいや、食べ物が供えられていたような気もする。

あまりにもさりげなくそこにあったので、そんなすごいものだとは思いもしなかった。


「まぁ、これをただの昔話と一笑するか、それとも信じるかはお前さん次第だな」


言って、八助はお茶を一口飲む。
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