畳ニ十畳ほどの広い座敷には、作りかけの鏡がたくさん置いてあった。

銀に輝くその光景は美しくも異様で、夜この部屋に足を踏み入れたらゾッとしそうだ。

八助は用があるからと席を外してしまったので、秋文は足元に気をつけながら一人で興味津々に棚に並ぶ鏡を、一枚一枚眺めていた。

それらは微妙だが、みな形が違うように感じる。

今まで考えた事もなかったが、世の中にはこんなにも鏡を必要としている人たちがいるのだろうか・・・。

確か正文が言っていたことには、ここで作られる鏡は姿を映す為のものではなく、邪気をはね返すものとして人々が依頼しに来るのだと言っていた。


「?」


中に変わった枠にはまった鏡を見つけ、秋文は触っていいものか…躊躇った末そっとそれを手に取る。

まじまじと色々な角度から見ていると、


「それは破魔の鏡です」


「わっ!!」


背後から声がして、鏡を落としそうになる。

秋文は慌てて振り返った。


(制服姿の…少年?)


栗色の髪、夏だというのに日焼けしていない肌。

スラリとした肢体で、背は秋文とあまり変わらない印象だ。

「これらはあなたが持ってきた封鏡とは反対に、魔よけの力を持っています」


「えっと、君は…?」


「坂上八助の孫で紋瀬(あやせ)と言います」


「君が十九代目、坂上の当主!?まさか学生だったなんて」


孫とは言っても、とっくに二十歳を過ぎているものだとばかり思っていた。

だが、紋瀬はそんな人の反応になれているのか、無表情のまま秋文に頭を下げる。

先ほど八助が『あなたもずいぶんと若い後継者だ』と言っていた理由が分かった。
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