コンコン

「………」

コンコン…

木戸を叩くが返事がなかったので、秋文は戸を開けて中に入る。


「すみません、どなたかいらっしゃいませんか?」


だがシンとして、誰も出て来る気配がない。

なかなか大きくて立派な構えの家だった。

昔ながらという感じで、玄関は土間。

壁は白い土壁だ。

呼び鈴もないし、他に行く所もないので秋文はしばらくここで待たせてもらおうと、玄関の上がりに座り込んだその時、


「何か用かね?」


ドキッ!!


背後から気配すら感じさせぬまま声をかけられ、秋文は飛び上がらんばかりに驚いた。

「あ、あの。何度か声をかけたんですけれども、返事がなかったので勝手に待たせてもったのですが…すみません」

深々と下げた頭をそろりと上げる。

と、今度はその人物が驚く番だった。

「これは何と…」

「?」

「お前さん、その包みの中身は鏡ではないのか?」

言い当てられ、秋文は頷いてみせる。

「はい。父・浜正文より預かってきました、あなたが坂上八助さんですか?」

「いかにも。そうか、お前さんがあの時の…」

「?」

「あ、いやいや」

弥助は秋文の視線に気づき、慌てて首を横に振ると、

「まぁ、上がられよ。長旅で疲れたじゃろう」

そう言って、秋文を中へ招き入れた。
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