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バスは秋文一人をバス停に下ろして行ってしまった。

鬱蒼と茂る木々、舗装されていない砂利道。

四方から響く蝉の声が耳に痛かった。

辺りには人家はおろか、人影もない。

当然のように、通りかかる車すらない。

寂しい山中は薄暗く、余りいい気分のものではなかった。


「えーっと、ここから…」


秋文はバスに乗る前に役場で木谷村への行き方を書いてもらったメモを見ながら歩き出した。

もしも教えてくれた人が間違っていなければ、二十分も歩けばその村へたどり着くはずである。

腕時計にちらりと視線を向けると、四時を十分ほど過ぎたところ。

五時前には村に着くだろう。

秋文はデイバックに風呂敷一つ、という軽装である。
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