「これを持って、木谷村の坂上八助さんという人物を訪ねてくれ」

父・正文は割れた鏡と一通の白い封筒を、風呂敷に包んで秋文に渡した。

「こっちに帰って来たばかりで悪いな」

「構わないよ。父さんは何かあった時の為、ここから離れられないんだから」

荷を受け取ると、秋文は玄関に向かう。

「本当は電話の一本も入れたい所なんだが、あそこは電話を引いてなくてな。だから八助さんを訪ねたらまず、私の代理だと言う事を伝えた後、この手紙を見せなさい。事情はすべて書き記してあるので、鏡を修理して持って帰ってきてくれ」


「わかった、行ってくるよ」


靴を履くと、秋文は家を後にした。

あの祀られていた鏡は、普通の鏡ではない。

正式には『封鏡』と呼ばれ、鬼を封じるための封具である。

浜は鏡を使って、鬼を封じることができる一族。

木谷村の坂上家は、その封具を作ることができる一族。

『浜』と『坂上』の両家は、切っても切れない縁で結ばれていた。


(どんな人間が鏡を作っているんだろ)


父・正文は何度か坂上の人間に会っているようだが、秋文は会うのはこれが初めてだ。

今から少しドキドキしていた。
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