「大丈夫だよ。私の他に有望な人材が、もう一人いるじゃないか」


「有望な…人材?」


涙目になっている少女の頭をくしゃり撫でると、正文はにこにこと笑った。

「秋文だよ」

「……おじさん、秋文はただの大学生…」

「でも普通の大学生とは微妙に違うから、大丈夫。心配しなくてもいいよ」

「微妙じゃ説得力なさすぎ…ううん、やっぱり普通だと思う」

幼い頃から秋文を知っている朱里は、彼を特別だと思ったことはない。

努力しているのは知っていた。

でもそれも高校一年まで。

父親の神主としての力が凄ければ凄いほど、自分には何もできないと歯噛みし、悔しがっている姿しか知らないのだから。

自分のことを買い被りすぎだと、彼はいつも朱里にこぼしていた。


(おじさんはそのこと、気付いているのかなぁ)


朱里はこの非常事態にも呑気に構えている正文を見て、そっとタメ息をつく。

「とにかく、秋文には私の代理という形で、封具の修理を頼みに行ってもらうだけだから。朱里ちゃんが心配することは何もないんだよ」

「…あ、そうなんだ。だよね、封具の修理をお願いしに行くだけだよね。ははっ」

もっと凄いことをさせられるのではないかと、内心ヒヤヒヤしていたのだが、それを聞いてホッとする。


翌日、秋文はここを離れられない父・正文の代理で、古くから付き合いのある鏡師・坂上八助のいる木谷村へ向かう事になる―――。
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