「ねぇねえ、父さん。この箱なぁに?」


押し入れの中から出てきた桐製の、手の平にすっぽり収まる箱に少年は興味を示す。


「これか? これはおじいちゃんからの預かり物の箱なんだよ」


「あずかりもの…? 中には何が入っているの?」


「さぁ、何だろうねぇ」


彼は子供の質問に笑いながら答えた。


「知らないの?」


「開けてはダメだと言われてるからね」


「開けたらどうなるのかな」


「うーん…おじいちゃんもそのまたおじいちゃんから預かったから、中は知らないと言っていたね。ほら、ここ。箱の横にシールが貼ってあるだろ?」


父親の指さす場所を見て、少年は頷く。


「でもボロボロだね」


「くっついているのは、ずっと開けてない証拠だよ」


「ボク、見たいなぁ」


「ダメだよ」


彼は迂闊に子供の目につく場所にこれを置いていた事を後悔した。

息子は好奇心いっぱいの瞳をキラキラ輝かせて、桐の箱を見つめている。


(後で目を離している隙に、手の届かない所へしまおう)


彼はそう考え、今は子供から目を離さないよう注意を払った。





箱の中身を知ってはいても、決して開けてはいけない。

それは、これを受け継ぐ者が守るべき掟。


たとえ好奇心が頭を擡(もた)げようとも……。
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