「赤い人」は、その笑顔を私に向けたのだ。


その、一見無邪気だけど、血まみれの醜悪な笑顔に、私の全身に悪寒が走る。


棺桶にカラダを納める事ができたという安心感で、気を抜いてしまった。


留美子が後ろから来ていたのが分かっていたのに……私はつい振り返り、「赤い人」を見たのだ。


携帯電話の淡い光の中、こちらに向かって歩いてくる。


走るでもなく、歌うでもなく……まるで、「いつでも殺せるぞ」と言わんばかりの笑みを浮かべながら。


私は……どうすればいいの!?


後退して、横に逃げても「赤い人」は追いかけてくる。


近付けば、確実に殺される。


そう考えている間にも「赤い人」に気圧されて、ジリジリと後退していた。


もう、横に逃げるしかない!


携帯電話の光を、右側に向けて私は走り出した。


と、同時に、長椅子の上に飛び乗る「赤い人」。