*7*


 晩陽の鐘の音を、メオラは中庭の井戸のそばで、夕餉の支度に使う水を汲みながら聞いていた。



 ごおん、ごおん、と響く鐘の音に合わせるように、縄に吊り下げた桶を、ゆっくりと下ろしていく。



 そうしながらふと、今頃城の外にはラグがいるんだろうな、と思った。



 エルマの寝室の花ならつい先ほど抜き取っておいた。

今頃ラグは、それを確認して安心しているだろう。エルマは無事だと。妹も無事だと。



「会いたいなぁ」



 考えるより先に、言葉が口をついて出た。



 会いたい。今の生活が特別辛いというわけではないが、あの優しい兄に会って、その暖かい笑顔が見たい。



 そう思ってため息をついたとき。



「誰に会いたいんだ?」



 突然、背後から声がかかった。

驚いて振り向くと、視界に映ったのは赤い髪の男――ラシェルだった。



 ラシェルを見留めた瞬間、メオラは眉間にしわを寄せ、明らかに不機嫌そうな顔になった。



「ごきげんよう、殿下」



 ツンケンした態度ながらきちんと礼をする。それを見て、ラシェルは苦い笑みを浮かべた。