*12*


 その日の朝は雲一つない快晴だった。


 鳥の高い鳴き声に起こされて、リヒターは眼を開けた。



 ふかふかのベッドの上に身を起こし、ぼんやりと広い室内を見渡す。



 視界に映るのは、長年過ごしてきた自室。

のろのろと腕を持ち上げて、ベッドの脇の台に置いてあった水を飲んだ。



 冷たい感覚が喉を伝い、それと共に寝ぼけた頭が覚醒していく。


「今日、か」


 凪いだ瞳で窓の外を眺めながら、リヒターは呟いた。



 その朝はリヒターにとって最後の朝。最後の、今日だ。



「いい天気だなあ」



 晴れてよかった。せめて、空くらいは。



 そう思って微笑んだとき、ドアをコンコンと叩く音がした。



「どうぞ」



 誰何もせずに、リヒターはそう言った。



「よう」と言いながら入ってきたのは。


「やあ、カル」


「なにが、やあ、だ。のんきなもんだな」