気付くと、派手に割れたグラスも倒れたテーブルも、綺麗に片付いていた。
「ちょっとは落ち着いた?」
代表にそう聞かれ、こくりと頷く。
「叶人と何かあった?」
代表には何でもお見通しだ。
「…いっぱい卸したのに、すぐ他のテーブル行っちゃうし」
じわ、とまた涙が滲み出てくる。
「行っちゃうし?」
柔らかく微笑みながら、耳を傾けてくれる。
「あのお客さん、すごい美人だし…、あたしなんかちんちくりんだし…、あの人のこと好きになっちゃうんじゃないかって、乗り換えちゃうんじゃないかって…」
嗚咽を漏らしながら、なんとか言葉を紡いだ。
「バカだなぁ、ゆうりちゃんは。
叶人がどれだけ…あ、叶人」
顔を上げると、叶人があたしの席に戻ってきていた。
「すいません、ちょっとだけ2人にしてもらっていいすか?」
叶人が言うと、代表はあたしの肩をポンポン、と軽く叩いてから席を離れた。
沈黙が流れる。


