「ゆうり?」

黙りこくってしまったあたしを覗き込むように、叶人が視界に入ってくる。


(無理だよ)

(無理)

(そんなに卸せない)


頭に自分の声が響く。

この言葉を口にしたときの叶人の態度が容易に想像出来て、簡単には言えない。言いたく、ない。


あたしはまた目を伏せてしまった。


「あ、ちょっとごめん」

慌てて携帯を持ってトイレに向かう叶人の後ろ姿を見送る。

きっと客だろう。今から来る気だろうか。


ざわざわざわ、と胸の奥底を、黒いものが蠢く。