「そうなんだ……。でも、いいね。こんな素敵なところに住めるなんて」
「時計はモデルルームとして使ってた時のがそのままかかってたから、そのままにしてるだけ。
元々23時から6時までは鳴らない設定になってるみたいだから、音もそこまで気にならないし」
気になる?と聞かれて、全然と首を振る。
「なんか外観もあるけど、お城みたいな造りだからあの時計すごく似合ってるなって思ってたの。
本当にシンデレラとかのお城で鳴るような鐘の音のイメージだし」
「童話に憧れるのは勝手だけど、どうせなら山も谷もない終始幸せなヤツにしろよ。
おまえの場合、現実が十分悲劇なんだから」
言い返せずに、はい……と大人しく返事をすると、和泉くんが、そういえばと思い出したように言う。
「食費、朝渡した分で足りる?」
和泉くんが真顔で聞いてきた事に、驚いてすぐに言葉がでなかった。
「朝預かったのって、あれ全部食費って事?」
「そのつもりだけど」
「でも、預かった食費、五万円もあったんだけど……」
ひとり分の食費しては多すぎる金額だ。
毎日相当な贅沢ができそうだし。
だから、もしかしたら和泉くんの数え間違いでそんな大金を渡してきたのかもと思って言うと、不思議そうな顔で、足りない?と聞かれる。



