「佐和ちゃん、声のボリュームおとしてくれないと、今ランチタイムで満席なんだから」
「……莉子。あんた、そんなひどい仕打ち受けておきながら周りの目なんて気にしてる場合?
もっと違う事気にしなよ。
例えば、男を寝取った女と、いい年して仕事中に無視とかする低能な女たちへの報復とか」
「だから、報復とかは別にいいんだってば。もう私が辞めて落ち着いてるだろうし」
「あっちが落ち着いてても莉子は落ち着いてないんだから巻き込んでやればいいじゃない。
っていうか、なんで何も言い返したりやり返したりしないの? 私なんて聞いただけで頭が煮えくり返りそうなんだけど!」
「だって……」
何も返せずに、苦笑いだけ浮かべていると、それを見た佐和ちゃんは怒りを大きなため息に乗せて逃がす。
それから私と同じように苦笑いをこぼした。
「まぁ、そうよね。莉子だもんね。
本当に損な性格よね。なんでも飲み込んじゃうんだから」
高校の頃から仲がいいから、佐和ちゃんは私の性格も言いたい事も全部お見通しだ。
だから、私の代わりに怒ってくれる事はあっても、私に何かを強要したりはしない。
今の事だって、言い返したりやり返したりするべきだって言っても、それを私に強制したりはしないから一緒にいてすごく楽だ。
私が人に強く言ったり困らせたりするのが苦手だって事を、佐和ちゃんは知ってるから。



