「ありがとう……」
それでもなんとかお礼だけ言ったけれど、そんな言葉だけじゃ感情を吐き出し切らなくて、喉とも胸とも言えない部分は苦しいままで。
もう和泉くんに怒られてもいいから、ありがとうって何十回何百回って言ってやろうと思って口を開いた時。
「俺の身の回りの面倒見てくれるなら、次の部屋の目処がたつまでここにいてもいいけど」
和泉くんがそう言った。
ありがとうを和泉くんに怒鳴られるまで言おうとして開けた口は「え……」と小さな発声をした後も、ポカンと開いたまま固まる。
ここにいていいって言われた気がするのは、私のお得意の勘違いだろうか。
そんな思いでただ信じられずに見つめていると、和泉くんが言う。
「部屋の目処がたっても、敷礼だとか家賃が払えるくらいのまとまった金が必要だろうから、正確には金が貯まるまでって言った方がいいか」
そこでようやく、信じられない言葉が私の勘違いじゃないと分かった。
「無理だよ、そんなの……。申し訳なさすぎる。昨日泊めてくれただけで私は十分だから」
「別に無理にとは言わない。ただ、行く当てがなさそうだから言っただけだし」
「無理っていうか……私が無理なんじゃなくて、和泉くんが無理でしょ?
私をここに置くなんて」
一度振った女と、家主と家政婦としてでも共同生活するなんて。
絶対に気まずいハズだ。



