「だって、いちいちでもお礼言うべきでしょ! こんなよくしてもらってるんだからお礼ばっかりになったって当たり前だし!」
「別に何も言ってない」
「ため息が物語ってた! しつこいヤツだって言ってた」
「おまえ、人の顔色ばっか見て過ごしてきたからそんな洞察力が鋭くなるんだよ。
もっと自分本位で生活してれば、俺のため息なんて軽く流せるのに」
「それはこれから努力するけど……できる限り。
それより私をしつこいヤツだって思った事、否定はしないんだね」

だって事実だから、と答えた和泉くんが私を見てふっと笑う。
その笑みが私をバカにしてからかっているモノだって事は分かったけれど、笑いかけてくれた和泉くんに怒る気にはならなかった。

笑顔ひとつでバカにされた事を許せるなんて、私は和泉くんの言うように本当にダメな女だと思う。
でも、私だって誰の笑顔にでも黙るわけじゃないんだけど。

「牛乳あっためたけど飲める? 砂糖は?」
「うん。牛乳好き。砂糖は大丈夫」
「じゃあこれテーブルに運んで。あと、苺ジャムも」
「はい」

牛乳の入ったカップをふたつと、苺ジャム、そしてスプーンを、言われた通りテーブルに運ぶ。