今更気づいたけど、この部屋、南向きだったんだ……。

それだけで、同じ間取りでも万単位で家賃が上がるハズ。
一体この部屋の家賃はいくらなんだろう。想像するだけで怖い。

「苺ジャム? マーガリン?」
「あ、苺ジャムで。ありがとう」
「いちいち礼言ってないで顔洗ってこい。タオルそのまま使えるから」

冷蔵庫を開ける和泉くんの背中に命令されるまま、洗面所に向かって顔を洗う。
かけてあるタオルで顔を拭いて、洗剤の香りに気づいた。

ついさっき、和泉くんが顔を洗ったハズなのに、タオルは少しも濡れていなくて。
わざわざ新しいタオルを出しておいてくれたんだと分かった。

だけどお礼を言えばまた怒られるだろうし、第一これが私のためかも分からないし。

もしかしたら、朝顔を拭いた後、タオルを洗濯機に入れるっていう生活サイクルなのかもしれないし、勝手に私のためだなんて思うのはうぬぼれすぎだ。

だけど、万が一でも私を気遣ってだったらと考えると、お礼を言えない事にもやもやしてしまって。

とりあえず、洗面所とタオルを借りた事は事実なわけだしと、冷蔵庫に牛乳をしまっている和泉くんにお礼を言うと、肩の動きで軽いため息をつかれたのが分かった。