「孝広がいるからダメなんだろ?」
「そうだけど……」

もう奏一くんしか見えない。

そう訴えると奏一くんは妖美に微笑んで。
そして、軽くキスした後、和泉くんを揺すって起こす。

「孝広、寝るなら自分の部屋戻れ。風邪引く」
「ん……ああ、悪い。久しぶりに酒飲んだからつい……。
今何時?」
「22時前」
「もうそんな時間か。悪かったな、遅くまで。
莉子もまたな」
「あ、うん……また」

火照った顔を隠すように、一瞬だけ笑顔を向けて残りの食器を洗って誤魔化す。
和泉くんはそんな私を不思議に思った様子もなく、大きな欠伸をしながらキッチンの横を過ぎて玄関で靴を履いた。

「じゃあ、また」
「ああ、会社でな」

食器を洗い終えて水を止めると、玄関からそんな会話が聞こえてきて、ドアの閉まる音とそれを追うように鍵を閉めた音が聞こえた。
そして、キッチンまで戻ってきた奏一くんが微笑んで私に手を差し出す。