莉子が出て行くと思うと、言葉が出なかった。

奏一くんは、そう淡々と話していたけれど、その横顔はなんだか悲しくて切なくて……つらそうで。
ただ見ていることができなくなって膝の上に置いている手を横から包むようにして握ると、奏一くんは私を見て微笑んでくれた。

大丈夫、そう聞こえてきそうな笑顔で。

「だけど、莉子があまりに俺にまっすぐ気持ちをぶつけてきてくれるから、誤魔化せなくなった。
好きだからこそ、限界だったんだ。
俺を見て好きだって笑う莉子が、本当は俺じゃなく孝広を見て言ってるんだって思ったから」
「それで、和泉くんを選んでこの部屋を出て行ってもいいって言ったんだ……」
「おまえにはその権利があるから。それに関しては今でもそう思ってる。
俺が繋ぎ止めておける権利がないとも」
「でも、私は……」
「だけど、おまえが素直に欲しがれって言ってくれたから。
こんな俺でも好きだって言ってくれたから……手を伸ばす事ができた」

でも、私は奏一くんが好きだから。
だから、権利だとか難しい事は関係なくここにいたい。
奏一くんの傍にいたい。

伝えようと思った言葉は、奏一くんの優しい微笑みで抑え込まれて動けなくなってしまった。