「奏一が気になる?」
隣を見ると、和泉くんは苦笑いにも近い微笑みを浮かべて私を見ていた。
気になる……。気になるというよりは、私は――。
答えようと口を開いた瞬間、「あ、やっぱりいい」とそれを止められてしまう。
どうしたんだろうと見ていると、和泉くんは困ったような、気まずそうな笑顔を向けた。
「五年前の事、覚えてる? 莉子がくれようとしてた手紙を俺が断った事」
「……うん。もちろん」
「その手紙さ、今もう一度もらう権利を俺にくれない?」
え……と声をもらすと、和泉くんが続ける。
「あれ、莉子が好きじゃないから断ったんじゃないんだ。
好きだったからこそ……傍にいる事もできないのに俺に縛り付けておく事が勝手に思えてできなかった。
留学が短期間じゃないって事は分かってたし、なかなか日本に帰れない事も分かってたから、手紙を受け取っても莉子に寂しい想いをさせるだけだと思ったんだ」
話の続きを予想して期待した胸が、ドキドキとテンポを上げて反応していた。
和泉くんのいつも笑顔を浮かべている表情が、凛として真剣な顔つきに変わる。
すっかり男の顔になった和泉くんに見つめられて、今まで和泉くんに感じた事のないような緊張感を感じた。



