時間があるかどうかを聞かれて返事に迷ったのは、家にいる奏一くんが気になったからだ。
私に本当の事を打ち明けて優しく送り出してくれた奏一くんを、ひとりで置いてきてしまったから。
ひとりでどんな気持ちでいるんだろうって気になって仕方なかった。

いつも冷静で落ち着いている奏一くんの事だ。
私が心配する必要もないのかもしれないけれど……でも、気にせずにはいられなかった。

送り出してくれた時の奏一くんの笑顔が、少し寂しそうに思えて。

少し話さないかって言葉に戸惑ったのは……和泉くんの顔が少し真剣に見えたから。
今までの明るい雰囲気とは少し違う気がしてどうすればいいのか分からなくなった。

だって、好きだった人と急に二人きりにされたって何を話せばいいのか分からない。

だけど、誘いを断る事もできなくて。
結局曖昧に頷いて椅子に座り直すと、そんな私に和泉くんが笑いかける。

「そういえば俺、日本に帰ってきて日が浅いからこの辺の事よく分からないんだけど、あそこ、まだある?
学校の近くにあったクレープ屋」
「あ……よく帰り道に食べたところ? あるよ。
新しくできたショッピングモールに二号店も出したし、相変わらず人気店みたい。
この間久しぶりに食べたけど、変わってなくておいしかったし」