「莉子、俺だと思って一緒に住み始めたのか? 同姓同名って事?
……いや、でもその前に普通気づくだろ。よく知りもしないで一緒に暮らし始めたわけじゃないんだろ?」

和泉くんの疑問はもっともだったけど、それに答えるだけの余裕は今の私にはなくて。

「和泉くんだと思って住み始めたけど……さっき、初めて下の名前聞いて、奏一って言ってた……」

まだ混乱中の私が言えたのは、和泉くんがした質問の答えには半分も満たない、そんな言葉だけだった。

奏一くんが騙そうと嘘をついていたのかは分からない。
もしかしたら言いそびれてただけかもしれないし、悪意なんて絶対にないって言い切れる。

第一、和泉くんは自分から下の名前を名乗ったりもしなかったし、きっと本当に言いそびれちゃっただけだ。

私も本当だったら聞くべきだったかもしれないけど、あの家では必要なかったから聞こうとすら思った事がなかった。
奏一くんがいて、私がいればそれだけでよかったから。
それは、奏一くんが和泉くん本人だって信じて疑わなかったからだって言えばそれまでだけど……。

それだけだろうか、とふと疑問に思う。
信じて疑わなかったってだけで、本当に私は何も引っかかっていなかったのかな。

だって、本当に別人だったとすれば、暮らしていく中で違和感だって絶対にあったハズだ。
いくら五年のうちに変わったって言ったって、それだけじゃ説明できないような違いだって、きっと……。

なのになんで私はそれを見逃してきたんだろう。

私は本当に奏一くんの全部を“和泉くん”として見てたの……?