ダイニング側のダウンライトしかつけていない薄暗い部屋は、今まで電気は全灯か消灯しか選択肢を持たなかった私にとってはやたら雰囲気があって苦手だったのに。
今はすっかり落ち着く空間になってしまった。

部屋の明るさより、和泉くんと過ごすからって理由が大きいのかもしれないけど。

「なんで、ベッドだけは持ってくるなって言ったの?」

アパートから色々と持ち出している時、本当はベッドも持ち出すつもりだった。
ベッドっていうか、ベッドはパイプベッドを使っていたから、正確には布団をって事だけど。
私が買った物だし、布団なら床に敷いて寝られるから。

だけど、持って行こうとした私を、和泉くんはなぜか止めた。

ウーロン茶の入ったカップを両手で包みながら待っていると、私にチラっと視線をくれた後、和泉くんが答える。

「あの布団はおまえのかもしれないけど、おまえが部屋を出てからはずっとあの男が使ってたんだろ」
「うん」
「その布団で、平気で寝れるのか?」

寝れるか寝れないかで聞かれれば、答えは寝られる、だ。
元からあまりその辺気にしない性質なのもあるけど、シーツや枕カバーを洗って、布団も一度干しちゃえばもうなんの問題もないとさえ思う。