「アパートってこの辺?」

アパートまでの道を歩いていた時そう聞かれてハっとした。

「和泉くん、帰っていいよ! ごめん、なんか当たり前のようにアパートまで行こうとしちゃって……」

隣を歩いていた和泉くんに慌てて言うと、和泉くんは歩く速度を緩めずに答える。

「別にいいよ。前から思ってたんだけど、荷物ってひとりでどうにかなる量?
鞄ふたつ分しか持ってきてないんだから、結構残ってるだろ」
「それは……まぁそうだけど」

正直、結構あると思う。
どこまで持ってくるかは決めてないけど、テレビだって私のだし。
持って行ったら文句言われそうだし、持って行く手段もないから置いていくつもりだけど。

「アパートの場所だけ分かったら、一度マンション帰って車で行くから。
アパート、もう見えてる?」
「あ、うん。あそこの三階建てのアパートだけど……え、でもいいよ! 本当に!」
「ステーションワゴンだから、後ろそれなりになら乗るし、必要なら二、三回往復しても……」
「えっ、いや、大丈夫だよ。そんなの悪いから!」
「じゃあ一回だけくるから」

それまでにできる限り整理しとけ、そう言って和泉くんは背中を向けてしまう。
大丈夫だからって一度言ったけれど、それは冷たい背中に跳ね返されて、和泉くんから返事はなかった。

そして、こういう時の和泉くんは頑固も頑固で私が意見するだけ無駄ってもので。
もうこっちが折れるしかないと知っているから、諦める。

なんかもう、本当に迷惑かけっぱなしの自分に嫌気が差しつつ、せめて荷物をまとめておこうと走ってアパートに向かった。