看板から店舗に視線を移すと、下に続いている階段に気づく。
五段ほど降りた先にある黒いドアの両脇はすりガラスになっていて、中のダウンライトの光が見えた。
ドアを見ただけで入りにくいと思う事なんてあるのかと、しばらく呆然としてしまった。
入りにくいなんて完全に客商売としてNGな気がするけど……私レベルなんて門前払いって事なんだろうか。
和泉くんの言うように敷居が高いって事なんだろうけど、本当に入りにくい。
少しの間ウロウロしていたけど、そんな事をしているといつまでたっても荷物整理に移れないから、意を決して階段を下りてドアを開けた。
落ち着いた雰囲気に流れるのは、バラードというか……ジャズとか言うのかもしれない。
そのへんの音楽をよく知らないからなんとも言えないけれど、少なくとも私がよく行くようなスーパーとかデパートではかかっていない類の音楽だった。
映画とかで、よくこういうお店見るかもしれない。
カウンターでひとりで飲んでいる女性が、注文していないのにバーテンダーにカクテルを渡されてあちらのお客様からですみたいな、そんな感じのおしゃれバーだ。
ダメだ。雰囲気に酔いそうだ。
すごい大人が来るところだ、ここ。
そう思い不安になりながら店内を見渡して……奥の席に元カレがいる事に気づいた。
元カレと……元浮気相手、今は彼女の坂下さんが。