ディスオーダー【短編集】


 まるで……一目見てバカンス気分をぶち壊すような寂れた建物なんだけれど、アレは一体、なんの建物だろう?

 城の風貌な気がしないでもないけれど、それにしては全体的に小さく思う。

 私は足早にその建物へと近付き、玄関であろう扉の前で建物全体を見上げてみた。


「ロザ……リンド……旅館?」


 かろうじて読めた看板には、〝ロザリンド旅館〟と記されていた。〝ロザリンド〟の部分は思い切りカタカナだ。

 どうやらここは旅館……らしい。

 けれど、普通〝旅館〟って聞くと和風様式な建物を想像するから、城っぽい風貌も、名前の響きが外国っぽいのも珍しいかもしれない。

 珍しさに思わず胸が踊るが、そのわりには全体的に寂れており、人の気配を全くといっていいほど感じない。……と、なると、ここはすでに廃旅館と化してしまった建物なのだろうか?

 一瞬にして踊る胸が静まったけれど、もしかしたら、いつまでもこのままバカンスだなんだと浮かれている場合ではない……のかもしれない。

 ここがどこなのか、どうして自分がここにいるのかを思い出せない以上、状況把握の1つとして、この建物の中を調べる必要があるのではないだろうか?