見上げた夜空はそ知らぬふりだ。

当たり前か。
壮大な空からすれば、私なんかチリも同じ。
私がこんなに心を痛めていたって。
涙を流していたって。
無情にも明日は来る。

……拓のいない明日が。


てくてくてくてく、ただ足を進めて歩く。

マンションに着いて鍵を開け、そのままバスルームへ向かった。
熱い熱いシャワーを浴びる。
頭から。


「 ああああ……」


抑えていた声が漏れる。
シャワーのお湯と一緒に。
冷えた体を暖める。
けれど、寂しくて寂しくて震えている気持ちは、どうにも温まらない。


バスローブだけを羽織り、自分の部屋へと急いだ。
下着をつけ、パジャマを着る。


面倒だ。
面倒だ。

何もかもが、面倒。


髪の毛も濡れたまま、私は布団に潜り込む。
体全部が液体になったみたい。

薄明かりの中で赤いソファーが浮かんでいる。
拓が塗った赤。
紅の好きな赤。


大嫌いだ。
大嫌いだ。


また涙が溢れてくる。
鼻の奥が痛い。


私なんか死んじゃえばいい。
私なんかいなくても、誰もそんなに困らない。
泣いてくれるのは、きっと母親くらいのものだ。
それから、明日香。
拓はいつまでも私が死んだことを知らないでいるんだろう。
だって、もう、この家には来ないんだから。
それなら、生きてたって死んだって同じ。
拓にはずっと、会えないのだから。
なんてまた、子供みたいにくだらないことを考える。


早く、奪われてしまいたいのに、なかなか睡魔はやってこない。

早く来い。
早く来い、睡魔。

私をさっさと、頭から食べてしまってよ。