「私、お見合いとかも、考えてるし」



嘘も大ウソ。
お見合いなんかこれっぽっちも考えていない。

だって私には、拓しかいないんだもの。
拓のことだけ、見てきたんだもの。
他の男なんか目に入らなかった。
なのに拓には、紅がいる。
30にもなって、拓を失ったら一人ぼっちだなんて、そんなの、悲しすぎる。



「はあ?
言いたいこと、よくわかんねえんだけど。
つまり、オレと別れたいってこと?」


感情的になると、口調が静かに重々しくなる拓。
目が据わってる。
口元をきゅっと結んで、怒りをぐっと堪えている。


「別れた方が良いのかもね、ってこと」


それは、私も同じ。
胃がキリキリと痛むほど緊迫した空気を、吸っては吐き吸っては吐きしながら、溢れ出しそうなヒステリーを抑えている。

年を重ねると、変なところが器用になる。
冷静な部分を残して、感情的な自分を客観的に見ているんだ。
感情に動かされている自分が、カッコ悪いことをしないように、理性が見張っている。


カチン、とコンロの火を止めると、お味噌汁は静かに沸騰するのを止めた。