「ふはー、いい湯だったー!
今日は遅いね、おばさん」
タオルでわしゃわしゃーっと頭を拭きながら、湯気を上げた拓がバスルームから出てくる。
スウェット姿なのはいつもの事。
けれど私の胸がざわつくのは、きっと……ていうか絶対、「べに」のせい。
「あ、あー、うん。今日は、職場の子達とカラオケだから」
けれど、私は何でもない風を装う。
ズズズズーっと、わざと大きな音を立ててお茶を啜る。
拓に聞こえるはずはないだろうけど、心臓の鼓動がうるさい。
「ビール、まだあったっけ?
……あったあった!
おー、やっぱ気が利くわー、フミエさん」
拓が勝手に冷蔵庫を開けるのもいつもの事。
けれど、今日に限って感にさわるのも、やっぱり「べに」のせい。
「ちょっとは遠慮しなさいよね」
語調が、強くなる。
「はーい、すんません」
けれど相手には全く効かない。
スルリと私の後ろを通りすぎて、拓がテーブルの上のスマホを手に取る。
……ドキリ。
「べに」からのライン、どんな顔して読むんだろう。
まじまじと拓の顔を眺めてみる。
親指を器用にスライドさせながら、メッセージをチェックする拓。
グビグビ。
もう片方の手には缶ビール。
あ、ほら、今、少し。
頬が緩んだような気がする。
ねえ、「また」の後はなんて?
今度は何の約束?
私の頭が、独りでにぐるぐるし出す。