紅の芸術の経緯なんてどうでもいい。
私が知りたいのは。
……私が知りたい、のは?
「紅とは何でもないの?」
「は?」
「あんた、紅と付き合ってるんじゃないの?」
「……は? 何ソレ。
バカじゃねえの?」
バカじゃねえの?って。
……はい、バカですけど。
「あいつはさ、他人のもんが好きなだけなの。
今、紅がひっついてる人、ヤスユキさん。
最近の紅のお気に入りなんだけど。
あの人、妻子持ちだし」
「……妻子持ち」
一階に目をやると、ステージの端の方で音楽パフォーマーのヤスユキサンとやらにひっついている紅の姿。
腕に指を絡めて、体をぴったり寄せている。
鼻の下を伸ばして満更でもなさそうな、妻子持ちのオッサン。
……マジか。
他人のものが好きだなんて、最悪だな。
「なんか、余裕があるように見えるらしいよ。
他人のもんは。
オレには、あの男の方がよっぽど余裕に見えるけど」
クイクイッと、拓はカツオくんを指差す。
カツオくんはニコニコしながら、そんな紅をそっと見守っているようにも見える。
父親のような、兄のような、優しい眼差し。
……まさか。
まさか、ね。
「カツオから聞いたんだろ?
ビーサンの話 」
ビーサンの話?
ええ、聞きましたとも。
感動的な、あれでしょう?
でもまさか、その片想いの相手、が?
「マジか……」
「報われねえよな、アイツも」