「お、来てたか」



背後から呼び掛けられた拓の声で、我に返る。



「あ! ミズキさん、来てくれたんすね!
アザっす!」



カツオくんも一緒だ。



「あれ?」



気が付いたら、サンドアートはとっくに終わっていた。
場内も明るくなり、開演前にエントランスで聞いた和太鼓が響いている。

あれ。
私、どんだけボーッとしてたんだろう。



「見てくる? 下。
ラストは、現代アート作家の展示、やってるけど」



拓が隣に座って言う。

ステージに視線をやると、大きな絵画の前に、沢山人が集まっていた。

モヤモヤした光のような、雨のような、綺麗だけどよく分からない絵だ。
大きいのが一枚、小さいのが二枚。




「あれ、けっこう有名な人の作品なんだぜ」


「……いや、あんまり、興味ないし」


「あっそ」


「あ、僕、あっち、座ってますね!」


「おー」


「……」



カツオくんは気を使ってか、私達とは少し離れた席に座って一階を眺めている。

私は拓と二人肩を並べたまま、いったい何を話せばいいのかと考えあぐねいていた。


今日の、あれ、かっこよかったよ!とか?
とっても素敵だったわ!とか?

……キャラじゃないな。



「どうだった?」


「ん」


「ん、て」


「あれ、あの、音楽」


「あー、音楽?」


「紅が作ったんだってね?」


「あー、そうそう。
紅は、カツオの予備校時代からのツレで。
ずっと油絵やってたんだけど、最近は音楽に目覚めたみたいよ?」


「……ふーん」