「……ふふ」
「ん? 何か面白いこと、想像した?」
「あ、いや」
こうくんの笑顔に、慌てて頭の中から拓を追い出した。
隣にこんな素敵な男性がいるのに、私ってば失礼すぎる。
昨日会ったばかりだから、拓の顔が鮮明に現れるのだ。
……ああ。
こんなにも、拓が私の中にいるという現実を突き付けられる。
こうくんと一緒に居ても。
いや、一緒に居れば居るほど。
拓への気持ちが確信に変わっていくのだ。
まるで、重力みたいに最初から私の中心にあって。
この気持ちが傾いていくのを、自分でも止めるとができない。
それから二人で中庭に出た。
寒い一月でも小さな花がいくつか咲いている。
ハーブか何かだろうか。
名前は知らないけれど。
木々は葉を落としているけれど、春や夏はどんなにいいだろう。
秋だって、紅葉しているのかもしれない。
風は冷たいけれど日が暖かかった。
二日酔いだった頭も、いつの間にか少しスッキリしている。
コーヒーが効いたのかも。
「良いところだよね。
人気なのもわかるよ。
まあ、費用は相場の1.5倍ってとこだけど」
そう言ってこうくんは苦笑する。
……費用。
ああ、そうか、結婚式を挙げるのにお金がかかるんだよなあ、なんてぼんやりと思った。
現実味がないから、何だか想像できない。
私の生活の中に、ここでの挙式が組み込まれるなんて絶対にあり得ないような気がする。
ここはディズニーランド並の夢の国で、完全にフィクションでしかないのだ。
だって、私、貯金なんてそんなにないし。
拓は30なのにまだアルバイトだし。
……って、また。
私が結婚するかもしれない相手は。
もう、拓じゃないのに。
なら、こうくん?
こうくんなの、かな。