芸術的なカレシ






「いくらしたと思ってんのよ!
このワンピと靴!」



「知らねえよ」



「まあ、そうだろうけどさ……」



「つうか、別にオレのために買った訳じゃねえだろ?
意味わかんね」



「……」



ああ、ホントだ。
意味わかんね、私。

何で怒ってるんだろう。
このワンピは明日香の結婚パーティーのために買ったもの。
別に、拓に見せたかった訳じゃないのに。

……ない、のに?



「あー、ほれより、ほれ」


「ちょっと、口に肉入れたまましゃべらないでよ……
てか、何? これ」



拓に手渡されたのは、一枚の紙切れ。
くすんだ赤に、黒字のプリント。
何かのチケットみたい。



「今度、カツオとやるイベントのチケット」



「……えーと、
2月、11日、土曜日。
ピー、エム6時、オープン。
クラブガーデン……え? ガーデンって、ライヴハウスだよね?」



「そ」


「音楽イベントなの?」


「んー、まあ、来てからのお楽しみ」



お楽しみ……って、来ること前提?



「それ、やるよ。
本当はワンドリンクつき1500円だけど」


「……一枚しかないの?」


「ん、来る来ないはお前の自由だけど。
来るなら一人で来て。
男連れは、ナシ」


拓が目を合わせずに、そっけなく言う。
目を合わせないのは、少し照れている証拠。



「お前にだけ、見てもらいたいから。
来るならちゃんと、集中して見ろよ」



……オマエニダケ。
お前にだけ?

拓からの聞き慣れない台詞に、思わず目が点になる。