芸術的なカレシ







「あーああ」



拓がスルリ、と私の隣に立つ。
夜景をバックに、窓を背もたれにする。
チラリ、と不自然にならないように視線を泳がせると、心なしか痩せた拓の顔があった。



「あんた、痩せたんじゃない?」


「あー、今、メチャメチャ忙しいから」



忙しいんだ。
紅とはよく、会ってるのかな。



「そっちは?
こないだの映画の彼氏とは、ジュンチョーなの?」



……彼氏。
彼氏、か。
彼氏なんだろうか。




「……うーん、まあね」



まあね。
それ以外に、言葉が見つからない。



「あ、そ」



あ、そ?
あ、そって、それだけ?

他に何もないの?
どんな男かとか、興味ないの?



「……」


「……」



しばらく黙って、二人でシャンパンを飲む。
メインディッシュのローストビーフが、さっきと同じボーイによって運ばれてきた。

うまそー、肉久しぶりーとか言って、キラキラした瞳で拓は肉にかぶり付く。


……バカじゃないの。
ホント、バカじゃないの。


嬉しそうな拓の横顔を見て、うんざりする私。


ねえ。
私の変身については、何とも思わないの?
珍しい服着てるね、とか、いつものお団子じゃないね、とか。



「でも、後ろ姿だけで、よく私だってわかったね?」


ちょっと滑稽だけど、自分から振ってみる。
自分でもいつもと違うって思うんだ。
拓にだって、少し違って見えるはずなのに。



「え? なんで?
いつもわかんじゃん」



けれどバカ男はきょとん顔。

だーかーらー、いつもはいつもでー、今日はちょっと違うでしょうってこと!
全く女心の分からないヤツ。



「お団子の位置が違うくらいだろ?」



そう言って拓は、ローストビーフの2枚目を頬張る。



「……」



お団子の位置、だと?