芸術的なカレシ







「大丈夫? 疲れた?」



私のそんな溜め息に反応して、隣でこうくんが心配そうに眉をひそめた。



「いえ、大丈夫です」



笑って見せると、よかった、と微笑んでくれる。
ああ、もう、この人は本当に。
いったいどこまで優しい人なんだろう。
後光が差して見える。

私、少しづつ、変わっていけるかな。
この人と一緒になら。
えくぼを見ながら、またそんなことを考えた。


こうくんが連れて行ってくれたお店は、有名なファストファッションブランドのビルで。
一階から四階まで、全部がそのブランドのお洋服で埋め尽くされている。
オープンしたというニュースは、ファッションに疎い私もいつかテレビで見た。



「うわあ……」


目眩がするほどの人だった。
入場規制され、何人もの人が入り口で行列を作っている。

そういえば、拓は行列も嫌いだったな。
あいつが行列に並ぶのは映画を観る時とライヴに行く時くらいで、いつもいつもイライラして足をバタバタさせていたっけ。



「すごい人だね。
もしはぐれたら、出口で待ち合わせをしよう」


さすがにこの人混みの中で、いつまでも手繋いでいるわけにいかなった。
洋服を手に取るのに、両手が必要だし。
私達はしばらく行列に並んでから、出る時間をだいたい決めてお店に入った。

色んなデザインや色のお洋服があるのに、どれも値札を見てみるとリーズナブル。
本当はあまり興味がなかったけれど、いざ目にしてみると、気持ちがワクワクする。