甘いのくださいっ!*香澄編追加しました*

「サトルさんっ、待ってくださいよ。
あんた、本当にこれでいいのかよ。
肝心な事は何も言わないでさ、
昔と全然、変わってねぇじゃん。
これじゃあ、会社勤辞める時に
俺にしたことと同じだよ。
そうやって、自分だけ格好つけて
結局、逃げてるだけじゃんかよ!」


去っていこうとするサトルさんに
坂下さんが叫んだ。


サトルさんはドアの所で
私達に背を向けたまま
一瞬立ち止まったものの
直ぐにドアを押し開け振り返ることなく
部屋から出ていった。


「くっそっ!」


ガンッと坂下さんがテーブルを
叩くと用意されていたお料理の
お皿が揺れて結構な音が響いた。


こんなにも感情を露にする
坂下さんを見るのは初めてで
驚いた。


「ご、ごめん……。
つい、カッとなっちゃって。
驚かせたよね、胡桃ちゃん。」


「いえ……。
それより、すいません。
私の為に……でも本当に私、大丈夫です。
サトルさんのことも最初から
諦めてますし、お見合いの一件が
無くなるのなら私の役目はもうないですよ。
それに……どう考えたって
ユズさんには敵わなーーーひゃっ!」


言葉の途中で坂下さんに抱き寄せられた。


「胡桃ちゃん……そんな顔で言うなよ。」


「坂下さん……。」


坂下さんの胸に抱き竦められ
爽やかな柑橘系の香りが
私の鼻腔を刺激する。


思わず涙腺が緩みかけた時
頭の上から声が降ってきた。


「あのさ、本当にしつこいようだけど
俺じゃダメ……なのかな?」


「えっ……。」


と、見上げた先には思い詰めたような
坂下さんの顔が直ぐそこに……。








きっと、この人を好きになれば
幸せになれるんだろうな。


甘やかされて大切にされて、
毎日が笑っていられるような
そんな日々が待っているんだろうな。


そんな考えが頭を過る。