甘いのくださいっ!*香澄編追加しました*

「自己紹介だと?
見ていると櫻やの若と
お知り合いのようだが
何れにしても勝手に部屋へ入り
失礼だとは思わないのかね?
これ、犯罪になるよ。
本来なら直ぐにでもここから
出ていって貰うところなんだが……。」


嫌な空気が走る中、
婚約者のお父さんである吉澤社長が
不機嫌さ200%で言う。


「そうですか。
では、勝手にここへ入った事は
悪いと認めます。申し訳ありません。」


と、行儀よくテーブルに
頭がくっくつくらい下げる坂下さん。
私もつられて頭を慌てて下げた。


「よろしい。
ではこれ以上、用がないのなら
この部屋から出ていきなさい。
今すぐだ。
私はどうもせっかちな性分でね。」


ニコリともせずに
吉澤社長がそう言うと


「なるほど。
せっかちなら好都合。
早いところ話を済ませましょう。」


「話だと?
失礼だが私は君とは面識もなく
話すことなどないように思うのだが?」


段々と吉澤社長が
イライラとし始めてきたけど……
坂下さん大丈夫なのかな……。
私の心配を他所に
坂下さんは静かに話し始めた。


「そちらになくてもこちらには
あるんですよ。
吉澤食品社長の吉澤幸吉さん?」


「君?何故、私のことを?」


「お忘れですか?
無理もない。
最後に会ったのは俺が高校生の時
だったかな?
確かうちの母親の出版記念パーティーで。」


「出版記念パーティー……?
き、君、名前はーー」


「ああ、結局まだ、
名乗ってませんでしたね。
俺の名前はーーー坂下 俊也です。
ご存知ないかも知れませんが
母親は素朴でこれと言って派手さもない
家庭料理の研究家をしております。」