「考えが浅はかだったって……
どういうことですか?
サトルさんなりに坂下さんを
思ってしたことなんですよね?」


「まぁな。
だけど坂下だけを思ってって
訳でもないんだ。」


「ん?」


「最初、親父があんなことになっても
俺はさほど気にしてなかったんだ。
後遺症が残るって言っても
全く手が動かねぇ訳じゃねぇし
これまで通りって訳にはいかなくても
細々と饅頭屋やってけるだろって
軽く考えてた。」


「そうなんですか。」


「ああ、そうなんだ。
俺はそもそも腹に入れちまえば終わりの
和菓子のデザインをちまちまとするよりも
使いやすく且つ、
美しく洗練された文具を作る方が断然
意味のあることだとずっと思っていた。
だから、饅頭屋なんて継ぐ気とか
全くなかったんだ。
俺の代でつぶれたって構わねぇって。」


「つぶれてって、そんなぁ。」


「本当にそう思っていたんだ。
だけどある時、夜遅くに帰ってくると
作業場に明かりがついていて
見てみると親父が一生懸命
饅頭作ってるわけよ。」


サトルさんは作業台をひと撫でした。
当時を思いだすかのように。


「何度も何度もあんこを丸めては
皮で包んでいくんだけどさ
どうも思い通りじゃねぇんだろな。
俺が見た感じだと全然分かんねぇのに
親父は出来た饅頭をバンバン
ゴミ箱に捨てるんだよ。
鬼みてぇな厳しい顔してさ……。
それ見たときに思ったんだ。
親父は必死でこの店を
守ろうとしているんだなって。」


「そんな事があったんですか……。」


「でまぁ、この店継いでやろうって
親父が必死に守ろうとしているものを
俺が今度はやってやろうって
継ぐ気になったは良いけど、
いざ、親父にその事を言うと
お前みたいないい加減なやつに
この店は継がせねぇとか言うし。」


「確かにいい加減……。」


「はあ?何だって?」


「いえっ、なにもっ。」


つい、思ってることが……。


「まぁ、いいや。
っで、俺は兎に角、会社辞めて
ちゃんと親父に弟子入りしようって思った。
だけど気持ちが焦ってたんだろうな。
自分の仕事を一日も早く
段取りつけてしまおうって
信用できる後輩の坂下に任せようって……
それでやったことが裏目に出たと……。」


そうだったんだ……。
そんな事情があったなんて
思いもしなかったな……。
何だかんだ言っても
サトルさんも坂下さんも
不器用なだけかもしれない。


二人とも相手を気遣う思いが
空回りしちゃったんだよね。


なんてしみじみ思っているとーーー










「おい、おいって。」


「へっ?」


「ボケッとしてんじゃねぇよ。
俺は今、全部ちゃんと話したんだから
今度はお前が話す番だよな?」


そういうとサトルさんは
私の横にもう1つあった丸椅子を
持ってきて、並んで座った。