「坂下さん……。」


そう、櫻やに行かなくなったのと同時に
坂下さんの事もなんとなく
避けるようにした。


自分の気持ちが分かっていながら
これ以上、坂下さんといるのは
ダメな気がしたから。


坂下さんはこう言ってくれるけど
やっぱり、近くにいると
きっと、坂下さんの優しさに
甘えてしまうんじゃないかって。


だから、少し距離を取ろうと思ったんだ。


と言っても忙しい人だから
社内では滅多に会わないし。


こうして社食で会うのも
とても珍しい。


ん?
確か今日って終日外出だったような……。


「坂下さん、確か今日って
終日外出じゃーーー」


「そうだよ。」


と、何てことない顔をして
あっという間にざる蕎麦を
食べてしまった。


「も、もしかして!」


「そっ、そのもしかして。
誰かさんが電話かけても
出てくれないしメールの返事も来ないし。
こうでもしなきゃ、つかまらないじゃん。
と言ってもたまたま、
近くまで戻ってきてたからっていうのも
あるけどね。」


「スイマセン……。」


「悪いと思うなら明日の休み付き合って。
迎えに行くから、いいね?」


「ひゃっ。」


トレイを片手に持ち、その反対の手で
また頭をポンポンとされて
思わず変な声が出る。


「ったく……。
そう言う顔、他のヤツにも
見せたりしないでよ。
胡桃ちゃん、自覚ないから心配だよ。
じゃっ。」


そう言いながら、坂下さんは急いで
社食を後にした。