甘いのくださいっ!*香澄編追加しました*

あいつを初めて見たとき
俺はまだ親父にも全然
和菓子職人として認めて貰えず
俺としても偉そうに啖呵切って
後を継いだものの
思うようにいかなくて
ちょっと、行き詰まっていた頃だった。


それでもいくつかは
任されている菓子もあって
丁度、季節は春。
さくらの花を型どった練りきりを
新しく作っていた。


何度も何度も作っては親父に
「こんな、みっともねぇもん出せるか。」
って、ごみ箱へと投げられて
やってられっかって
気晴らしに店のすぐ近くにある
川沿いの公園へとやって来た。


春といっても風はまだ冷たくて
熱くなっていた頭が急に冷め始めた。
短気起こして出てきたものの
親父の言うことも一理あるかって
店に帰ろうとしたとき


ふと、川沿いのベンチに座って
旨そうに饅頭食ってるやつがいたんだ。


俺が初めて親父に
これならいいだろうって言われた
田舎饅頭を大事そうに
両手で持って一口、一口
ゆっくりと味わっていた。


そして、食べ終わると
ペットボトルのお茶を
飲み始めたんだ。


ホットのお茶らしく
猫舌なのか、ふうふうしながらも
中々、飲めなくて
その姿見ていると


ーーーーフッ、ミツに似てる


その姿を見ていると
婆ちゃんが飼ってる
猫のミツを思い出した。
俺はその姿になんか妙に
愛着が沸いたんだ。


それからも
昼時になればそいつは店にやってきて
ショーケースに張り付きそうな
勢いで一つ一つの商品を見ては
あーでもない、こーでもないって
一人楽しげに何を食べようか
悩んでいた。


ーーーもっと種類増やしてやりてぇな


親父が店をやっていた時より
品数がまだ揃っていなかったから
俺はそいつにもっと色んなものを
食べさせてやりてぇって
自然と思うようになった。


そして
思った通り
店に来て新しい商品が
並んでいるのを見ると
なんとも言えねぇ顔で
喜ぶんだ。


俺はいつしかそいつを喜ばせたくて
和菓子作りに一生懸命になった。


そうしてやっているうちに
親父にもボチボチ認められるように
なってきていた。


そんなとき、
例のあの話があったんだ。


見合い話だ。


断るだの受けろだのと
親父とひと悶着しているとき
俺はたまたま店に来ていた
あいつをーーーー


胡桃を巻き込んだんだ。