咄嗟(とっさ)に放った言葉。放ってしまった言葉。
 どうして私は「あなた!」なんて言ってしまったのだろう?
 これじゃあまるで、「イタズラもお菓子もいらないからあなたがほしい!」って言っているみたいではないか。
 案の定、彼は目をぱちくりとさせていて、驚きに満ちた表情をしている。
 しかし、やがて口元を三日月のような形に歪ませ、ニィッと笑った。

「おもしろいことを言うんだねぇ、キミは……。その言葉は――」

 刹那、小さな彼の身体を、黒い風がすっぽりと覆い隠してしまった。
 しばらくして黒い風が消え去った時、彼の身体は――大きくなっていた。
 少年だった身体は、青年のものへと姿を変えたのだ。しかも、顔はかなり整っており、とても美形で……いわゆるイケメンというもの。
 少し、ほんの少しだけだけど、彼に見惚れてしまっている自分がいた。

「――この俺の姿でも言えるのか?」

「へっ?」

「まさか……“なりゆき”や“思わず”で、「あなた!」と答えたわけじゃねェだろ?」

「そ、それは……」

 ずいっと私の顔に近付けてきた綺麗な顔と、圧倒的な威圧感を前にして、「実はそうなんです」と言えるわけもなく――私は「はい」と答えた。