複雑な気分になったのは、恭ちゃんの答えが曖昧だったからじゃない。
事務長は、恭ちゃんから何も告げられなくても、本当の恭ちゃんに気づいたんだって思ったから。
「私は……恭ちゃんから言われるまで気づけなかったのに」
そう呟いた私に、恭ちゃんは少し黙った。
それから近づいて、俯いている私の目の前で立ち止まる。
「気づけなかったって、気づきたかったって事か?」
「気づきたかったよ。あんなに追い回して、好き好き言う暇があったなら、気づきたかった。
本当の恭ちゃんを、ちゃんと知りたかった」
六年間もただ上っ面しか見てこられなかった自分が情けなくて。
幼かったんだしって理由だけじゃ、諦めきれなくて。
普段、何に関しても深く執着しない分、なんでこんなにもこの事だけを追及しちゃうのかは疑問だけど、どうしても、仕方ないって言葉じゃ片付けられなかった。
気付けなかった。
その事が後悔なんて言葉じゃ言い表せないくらいに刺々しく胸に滞り続けていて、あれからずっと痛んでる。
「思わせぶりだな」
恭ちゃんの軽く笑う声。
いつもだったら「そんな事ない!」ってムキになってるところかもしれないけど、今はそんな気分にはなれなかった。



