甘い愛で縛りつけて




「朝宮くん、河合さん。おはよう」

教員用の玄関から入って、急いで靴を履きかえていた時、声をかけられた。
顔を上げると、廊下を歩く事務長の姿があって、息を切らせたまま頭をさげて挨拶する。

「おはようございます」

隣にいる恭ちゃんと声が重なったからか、事務長は一度笑い皺を寄せた。

「河合さんがギリギリだなんて珍しい」
「あまりに満員だったので電車から押し出されちゃって乗り遅れてしまって」
「それは大変だったね。でも間に合ってよかった」

下駄箱の壁にかかる時計が指すのは、8時18分。
本当にギリギリで、間に合った事にほっとして胸をなで下ろす。

「せっかく間に合ったところ申し訳ないんだけど」

事務長が、困り顔で微笑みながらそう切り出す。

「なんですか?」
「そのまま朝宮くんと保健室まで行って欲しいんだ」
「……なんでですか?」
「今月初めに受けた健康診断、機材の故障で身長が計れなかっただろう。
この前、提出するために見ていたら、河合さんのだけ空欄のままなんだよ」
「あ。そういえばそうでしたね」

教員や事務員が集められて行われた、簡単な健康診断。
私の番が回ってくる直前で身長を計る機械のメモリが動かなくなっちゃって計れなかったのを思い出す。