「――信じられないなんて、ひどいな。実紅」
「……なに、その口調」
昔の口調で話しだした恭ちゃんは、私の指摘には答えずに続ける。
「俺は実紅に嘘なんかつかないよ」
「やめてよ、普通に話して」
「普通に話してるだろ? 実紅が好きだった頃の“恭ちゃん”で」
「でも……っ」
「懐かしいね。実紅が俺の背中を追いかけていた頃が」
クスって笑いながら言う恭ちゃん。
完全に昔の“恭ちゃん”を演じている恭ちゃんは、目を瞑ればきっと何の違和感も感じない。
六年前の恭ちゃんでしかない。
つまり、嘘の人格がそれだけ完璧に、いつどこでもひっぱり出せるように用意されてるって事だ。
演技とか、たまになら分かる。
私だって、誰と一緒にいるかによって少し態度とか変わるし。
本音で話す人と、上辺だけで話す人、色々いる。
けど、恭ちゃんは違う。
周りの人、誰にでも演じた自分で接していたんだから。
周りの人、全員に。



