「さすが眼鏡フェチ。よく気づいたな」
「フェチじゃなくても普通気づくでしょ。
あれ、恭ちゃん、左のほっぺどうかしたの? 腫れて……」
「それより、戻ってるってなんの話?」

遮るように聞いてきた恭ちゃんに、少しムっとしながら答える。

「口調だよ。さっきまでの口調が前の恭ちゃんだったから」

口を尖らせながら言うと、恭ちゃんは「ああ」と小さく呟きながら保健室の窓を開けた。
柔らかい風が白いカーテンを揺らす。

「あれは表用。これが地」
「今のが地……? だって六年前まではずっとあの口調だったよね?」

ただ単に、この六年間で変わっただけだと思ってたのに、思わぬ返事を返されて驚く。
だって、今の恭ちゃんが地って言うなら……六年前の恭ちゃんは作り物だったって事になる。

「そうだな」
「そうだなって……じゃあ六年前までの恭ちゃんはずっと嘘だったって事?
口調だけじゃなくて、性格も見た目も今とは全然違ったけど、もしかしてそれも……?」